ペルソナを中心とするユーザ指向要求工学とユーザ経験設計(UXD)

(Persona-Centered Requirements Engineering and User eXperience Design(UCD))

研究のフレームワーク

1. ペルソナとは

ペルソナ(Persona)とは,古代ギリシャの仮面劇で用いられた仮面を語源とします.
深層心理学の研究者であるC. G. Jung(ユング)[1875-1961]は,人の社会的役割をペルソナと呼びました.職場では社員や課長,部長などが,家庭では父親や母親の役割を果すことです.
近年,マーケティングや製品開発でユーザの深い理解に基づく詳細なモデルをペルソナと呼んでいます.
ペルソナのアイディアを普及させた推進者が,マイクロソフトでVisual Basicのアーキテクトであった,Alan Cooperです.彼は,使いやすいユーザインタフェースの設計において,ユーザに焦点を当てることの重要性を指摘し,ユーザのモデルをペルソナとして詳細に定義することを提唱しました.これについて,彼が書いた著書(The Inmates are Running the Asylum)は,ユーザインタフェースの設計で高い評価を得ています.この本の中で,彼が用いている標語は,「一人のためのシステム」です.

2. ペルソナを中心とするユーザ指向要求工学

私達は,情報システムやソフトウェア開発にペルソナを適用する方法を提唱しています.特に,情報システムやソフトウェアが何をすべきかを抽出し,分析する「要求工学(Requirements Engineering)」において,ユーザの視点から要求を明確にするユーザ指向要求工学を研究しています.そのために,まず,ユーザを理解する必要があります.ペルソナを用いて,ユーザの深い理解を促し,ペルソナの視点から要求の獲得と分析を行ないます.

3. ペルソナを中心とするユーザ指向要求工学の課題と提案する方法

ペルソナの利用において,次の2つの課題があります.
(1)ペルソナを発見する方法や手順が不明確
(2)ペルソナを用いて要求を獲得する方法や手順が不明確

(1) ペルソナ分析方法
私達は,統計的方法に基づき,定量的なデータ解析を用いて体系的にペルソナを発見する方法を提案しています.また,情報システムやソフトウェアの分野で,発見したペルソナを記述する枠組みとして「ペルソナパターン」を提案し,フィールド調査によりその有効性を確認しています.

(2) ペルソナに基づく要求獲得・分析方法
ペルソナを中心として,シナリオを用いて要求を獲得し,分析する「ペルソナ・シナリオ法」を提唱し,携帯電話のユーザインタフェースのフィールド調査により提案方法の有効性を実証しました.さらに,情報システムやソフトウェアへ課せられた目標(ゴール)に基づいて,ペルソナの視点から獲得した要求を分析する「ペルソナ・シナリオ・ゴール法(PSG法)」を提唱し,フィールド調査によりその有効性を確認しています.

4. ユーザ経験設計(UXD: User eXperience Design)

ハードウェアからからソフトウェア/サービスへと要求の主眼が移り,その対象は,ユーザ経験(UX: User eXperience)へと広がってきました.私たちは,ソフトウェア工学の諸概念,諸技術を応用し,ユーザ経験設計(UXD)に取り組んでいます.さらに,UXDの研究を通して,ソフトウェア工学の枠組みと技術の拡張と深化を図ります.



発表論文

[R0905] 田中 絢子,中道 上,青山 幹雄,プレミアムユーザインタフェースモデルの提案と適用,ヒューマンインタフェース学会 ヒューマンインタフェースシンポジウム2009 論文集(DVD-ROM),No. 1441, Sep. 2009, pp. 327-332.

[R0801] 青山 幹雄,中道 上,プレミアムユーザインタフェースの概念とペルソナによるモデル化,ューマンインタフェース学会 ヒューマンインタフェースシンポジウム2008 論文集(DVD-ROM),No. 2433, Sep. 2008, pp. 817-820.

[R0701] Mikio Aoyama, Persona-Scenario-Goal Methodology for User-Centered Requirements Engineering, Proc. 15th IEEE International Requirements Engineering Conference (RE 2007), Oct. 2007, IEEE Computer Society, pp. 185-194.

[R0501] Mikio Aoyama, Persona-and-Scenario Based Requirements Engineering for Software Embedded in Digital Consumer Products, Proc. 13th IEEE International Requirements Engineering Conference (RE 2005), Aug.-Sep. 2005, IEEE Computer Society, pp. 85-94.

[R0502] 青山 幹雄,大衆向け組込みソフトウェア製品のユーザ指向要求工学方法論: 花子メソッドと携帯電話を対象とするフィールド調査による評価, 情報処理学会組込みソフトウェアシンポジウム2005 (ESS2005) 論文集, Oct. 2005, pp. 150-157.

[R0401] 青山 幹雄,村瀬 香,中野 有美,要求工学の花子さん:個人を中心とする組込みソフトウェア要求分析方法, 情報処理学会ソフトウェア工学研究会,Vol. 2003-SE-144, No. 22, Mar. 2004, pp. 163-170.



参考文献

[Persona]
A. Cooper, The Inmates are Running the Asylum, SAMS, 1999. [山形 浩生(訳), コンピュータは、むずかしすぎて使えない!,翔泳社,2000].

J. Pruitt, and Adlin, T.: The Persona Lifecycle, Morgan Kaufmann, 2006 [秋本芳伸ほか(訳),ペルソナ戦略,ダイヤモンド社,2007].

S. Mulder and Z. Yaar, The User is Always Right, New Riders, 2007 [奥泉 直子(訳),Webサイト設計のためのペルソナ手法の教科書,毎日コミュニケーションズ,2008].

[eXperinece Design]

P. W. Jordan, Designing Pleasurable Products; CRC Press, 2004.

M. Hassenzahl, Experience Design, Morgan & Claypool , 2010.