動的ソフトウェア・サービス技術に関する調査研究活動

1. テーマと戦略的位置付け

(1)背 景

 インターネット上でe-ビジネスを実現するための新たなソフトウェア技術が求められている.特に,e-マーケットプレースなどの企業間の電子商取引では多様なサービスを動的に組み合せて,リアルタイムにビジネスの変革を支援できる必要があるため,従来のソフトウェア技術では限界がある.これまで,SSRの戦略的調査研究として「次世代コンポーネントウェア」(平成10年度),「ソフトウェアアーキテクチャ」(平成11年度),「動的ソフトウェアサービス」(平成12年度)と調査を進めた結果,動的ソフトウェアサービス技術が今後のソフトウェア技術の核となる戦略的技術であることが明らかとなった[1-3].一方,米国の主要ソフトウェア企業,大学,研究機関もソフトウェアサービス技術について2000年下期から研究・開発を始めており,「Webサービス」の名称でサービス記述言語WSDL (Web Service Description Language)UDDI (Universal Description, Discovery, and Integration)などの提案が行われている.しかし,わが国でこの分野の研究開発はほとんど着手されていない.本テーマはe-ビジネスの根幹を成すことから,わが国のソフトウェア産業ならびに産業全体の競争力の鍵となる喫緊の課題である.

(2)チャレンジ

 ソフトウェアサービスとは,インターネット上でアプリケーションやコンポーネントをラッピングし,プラットフォームにかかわらず相互に連携可能としたものである.多くのe-ビジネスでは,検索,認証,決済等のサービスを組み合せて実現されている.このようなサービスをネットワーク上で公開,探索,組み合せてより高度なサービスやビジネスを実現する基盤環境,開発・検証技術を開発し,インターネット上でビジネスの変化にリアルタイムに対応できるソフトウェアの提供を可能とする.

 
2. 調査研究の概要

 ネットワークを中心とする企業情報処理システム,モバイル情報システムをターゲットとして,サービスレベルのアーキテクチャ,開発方法論,基盤環境を中心に調査研究を行う.

(1) 調査研究内容

1) サービス基盤技術:XMLをベースとしたサービス記述言語,サービスディレクトリ仕様などが策定されているが,萌芽的段階であることと,欧米の標準のみに基づいているという問題がある.このような問題に対し,次のようなテーマで研究を行う.
a) サービスブローカ技術:サービスを仲介するブローカのソフトウェアアーキテクチャとその実現技術の開発と実証.特に,異なるビジネスや取引に対応できるブローカの開発.
b) サービス記述言語:サービスを組み合せて高度なサービスを記述できる言語仕様.
c) ビジネス/サービス・ディレクトリ技術:サービスをインターネットに公開し,探索するディレクトリの情報構造.特に,わが国のビジネス慣行も踏まえた情報構造の提案.
d) モバイルエージェントによるソフトウェアサービス基盤技術の提案.
e) 携帯電話/PDAなどのモバイルe-コマースに対するソフトウェアサービス基盤技術のアーキテクチャの開発と実証.


2) サービス開発技術:サービス開発技術はまだ研究開発がされておらず,今後のソフトウェアサービス技術の課題である.次のようなテーマで研究を行う.
i) サービス分析・設計技術:ビジネスモデルやユーザの振る舞いモデルに基づくサービスの分析・設計方法論の提案と試行評価.
j) ユーザ駆動型サービスモデル:B2Cなどで,個々のユーザの振る舞いをモデル化し,ユーザの多様性に対応できるサービス設計方法の提案.
k) ビジネスモデル駆動型サービスモデル:B2Bで多様な取引を動的に実行可能なサービス設計方法の提案.
l) サービス表記方法の提案とその支援環境の開発と実証.
m) サービス検証技術:サービスの動的振る舞いをモデル検証技術などにより設計段階で検証する技術.

n) サービスの動的組み合せ技術:複数のサービスを動的に組み合せてより高度なサービスを提供するための組み合せ方法論と支援環境.

3) エンタープライズ・サービス/ソリューション統合の調査研究
a) 狙い:インターネット上での電子商取引などのネットワークへの広がりをもつアプリケーションやサービスを連携・統合するための方法論と環境.
b) 内容:ネットワーク上での企業間サービス連携のための環境とプラットフォーム独立な情報パッケージ技術の調査研究.例:e-speakなどのサービス統合環境,ebXML,tpaML (Trading-Partner Agreement Markup Language)[7],SOAP (Simple Object Access Protocol)[4]などのビジネスプロトコル技術.

4) ソフトウェア・サービス検証
a) 狙い:ソフトウェア・サービスの品質などの要求を保証する設計・検証技術.
b) 内容:サービスの品質など非機能的特性のモデル化,サービス間の競合などを検証する方法などの調査研究.

(2) 調査研究の期待効果

個々の企業ではリスクの高い上記のテーマについてそれぞれの技術開発とともに,各技術開発を加速するためのソフトウェアサービス基盤参照テストベッドを開発する.これによって,複数の企業や大学がネットワーク上で連携してサービス技術の研究開発,実証実験を可能とし,研究から実践への技術移転を円滑にする.
1) ソフトウェアサービス基盤の参照テストベッドの開発:サービスやディレクトリなどを開発・実行するためのテストベッドとそれを支援するディレクトリサーバなどを立ち上げ,基盤技術の研究・開発とサービスの開発,試行・評価を迅速に行えるようにする.可能な範囲でオープンソースとして公開.
2) 実証実験に基づきサービスインタフェースなどをW3Cなどの国際標準へ提案.
3)
サービス開発方法論の提案と試行サービス開発による評価.


3. 調査研究の進め方

(1) 調査研究体制
 
 産業界のメンバと提案者らを中心とする研究組織により,研究調査ならびに提案書の作成を行う.

 青山 幹雄(南山大学),中所 武司(明治大学),中谷 多哉子(Slagoon),深澤 良彰(早稲田大学), ほか 海外との連携:米国Carnegie Mellon大学SEI(Software Engineering Institute)など本分野における世界の先進的研究機関と連携して調査・研究を行う.

(2) 調査研究の方法

1) 国際会議参加/先進企業訪問による技術動向調査:
 ソフトウェア工学,オブジェクト指向,ソフトウェアアーキテクチャ,ソフトウェアコンポーネントに関する国際会議,ワークショップ,展示会のならびに先進研究機関・企業を訪問し,技術動向を調査する.
例: ICSE(International Conference on Software Engineering),OOPSLA(Object-Oriented Programming Systems, Languages and Applications),EDOC(Enterprise Distributed Object Computing),
FSE (International Symposium on the Foundations of Software Engineering)
OOPSLA (Object-Oriented Programming, Systems, Languages, and Applications)など.

2) 集中検討会(ワークショップ)の開催:本分野における海外の先進的研究機関の研究者を招聘し,戦略的研究開発課題と技術を集中討議するワークショップを開催する.
招聘候補:米国Carnegie Mellon大学SEI(Software Engineering Institute),Illinois大学,IBM T. J. Watson Research Center,Microsoft Research,Sun Microsystemsなど. 月例調査研究会:委員ならびにゲストスピーカによる技術調査・検討

参考文献

[1] SSR動的ソフトウェアサービス技術調査研究WG,動的ソフトウェア・サービスに関する調査研究,産学戦略的研究フォーラム,20012月,http://www.iisf.or.jp/SSR.
[2] 青山幹雄,E-ビジネスを実現するサービス指向ソフトウェア工学へのいざない,情報処理学会第62回全国大会特別トラック(4)講演論文集,No. 3H-4, pp. 43-47, 20013.
[3] SSR動的ソフトウェアサービス技術調査研究WG,ソフトウェアサービス技術シンポジウム資料集, 20014.


SSRの活動については,下記のWebページをご覧下さい. http://www.iisf.or.jp/SSR/index.html

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